激動する社会の波におぼれずに、自分の頭で考え 行動しようじゃないの。 命令されるのなんか 大嫌い。「群れない、媚びない、とんでもない」の猫の精神でがんばっていきまっしょい。
 BS時代劇『薄桜記』によせて その2
2012年10月10日 (水) | 編集 |

昨日に引き続き、見終わった『薄桜記』の感想など。
これから新しくドラマを観る人には悪いけど(;^_^A
『薄桜記』の舞台は江戸元禄時代、内容的には「忠臣蔵外伝」といったところか。
かくいう私は、子どもの頃から「忠臣蔵」の話が苦手だった
だいたい何で刃傷沙汰を起こした側が、さらに討入までして義士と讃えられるのか
その心情は理解不能だし、大石内蔵助自体にもまったく感情移入できなかった。
これではちょっとまずいかなと、なぜ日本人は忠臣蔵が好きか、みたいなタイトルの
本(よく覚えていない)を読んだりして、そのときはなるほど…と思ったりはしたが
やはり今でも忠臣蔵関係は―好きな俳優が出ていれば別だが―興味が持てないな。


だが昨日も典膳と安兵衛のシーンで書いたのだが、赤穂浪士の討ち入りを望み
武士の義だとか忠節を熱く賞賛したのは、実は一般庶民の方だったのである。
こうした心情が時代を越えて語り継がれ、現在においても日本社会の中に、見えない
「空気」みたいなものを形成しているのではないか。
ちなみに新選組のあの浅黄色の隊服も歌舞伎の義士たちの衣装を真似たものだと
言われているが、誰が考案したものか、実際にはごく短期間だけ新人隊士たちが着た
のみで、近藤・土方ら幹部連中はカッコ悪いという理由で一度も袖を通さなかったとか。


さて『薄桜記』の脚本はジェームス三木が担当しており、NHKのHPの「番組の見どころ」
には、三木のこうしたコメントが掲載されている。

【武士道とは死ぬことと見つけたり。では何のために、誰のために。もちろんお家のために、主君のために。私の小学校時代も、日本人はみな国のために、天皇陛下のために、死ぬのが当たり前であり、戦死者は神に昇格した。現代でも自爆テロは、宗教のために命を投げ出す。
人間の死に方は四通りしかない。[病死][事故災害死][自殺][他殺]である。赤穂浪士の討ち入りは、明らかに集団テロであり、主君には忠義だが、幕府から見れば許しがたい不忠であった。五味康祐の描いた剣豪丹下典膳は、吉良家の用心棒だが、親友堀部安兵衛のために命を棄てた。これは自殺というべきか。他殺というべきか。
このドラマの今日性は、そのあたりに潜んでいる。視聴者の想像力や考察力を、かきたてる作品でありたい。】


映画の『薄桜記』の最後は凄惨な斬り合いで、雪を紅く染めながら典膳はなぶり殺しに
されるわけで、これはどう見ても「他殺」であって、後味が悪い。
その点ドラマでは基本的に原作を踏襲しているので、典膳の死の理由を視聴者にゆだねる
という含みを残して終えている。
またドラマシーンの構成自体もよく練られていて、最初と終わりのシーンと途中の挿話にも
リフレインの手法がとられていて、より余韻を深めている。
手塚治虫の『アドルフに告ぐ』や『火の鳥』などにもこの手法が多用されており、同時代人である
ジェームス三木らしいなと感じたしだいである。
そうした点も頭に入れて再度見直せば、『薄桜記』の持つ新たな魅力を感じられることだろう。








物語は、この神社の境内から始まる。
同人仲間に谷中散歩が大好きな人(高校教師)がいて
彼はいつも谷中の魅力を語っていたっけ^^;



    

左:七面社の夜桜見物に来ていた上杉家の江戸留守居役、
長尾権兵衛の娘・千春は、風でしなった桜の枝で額を打って
石段から足を滑らした。
右:その千春を抱きとめ助けたのが、やはり夜桜見物に来ていた
知行三百石の旗本・丹下典膳である。屋敷は麹町(今の千代田区)にある。
麹町(=国府路の町)は、甲州道中が江戸城に突き当たる場所である。

「目を開けよ!」
気を失った(本当は恥ずかしいので気を失ったふりをしていた)
千春の頬を軽く叩く典膳。
 





お互いに名乗らずに別れた二人だが、
その後、吉良上野介の取り持つ縁で、奇しくも夫婦になる。
上杉家の当主は吉良上野介の実子であったからだ。
以下、字幕のある写真は番組案内のものを抜粋。



    

左:新婚生活から2ヵ月後、典膳は大坂勤番になり
千春と母を江戸に残して大坂へ赴いた。
右:典膳の留守邸へ、千春の幼なじみで付け人をしていた
上杉家の侍・瀬川三之丞が時おり顔を見せるようになり
ある晩、恋焦がれていた千春を手込めにしてしまう。

千春と三之丞の噂は町中に広まっていく。
典膳の母は嫁の様子を案じて、病に倒れた。
そしてそんな中を、典膳が大坂から戻ってきたのだった。
 

原作本より
【元禄のこの比は、密通をした男女はその場に於て討留めてもよいと定められていた。又それを訴え出れば、取調べの上で男女とも同罪にするという規定がある。この同罪というのは姦夫姦婦を非人の手下にする、良民たる分限を停止するというので、死罪ではない。主人の妻に通じた男は獄門、女は死罪、夫のある女に強いて不義をした者――強姦は、死罪。そんな制度の定められたのは寛保年間(元禄から約50年後)のことである。
しかし元来、姦通は親告罪なのだから、実際には表立てずに内済するものが多かった。一かどの身分の武士なら猶更のことだろう。それだけに、千春の如く世間の大方にその情事を知られてしまった場合は、典膳の立場は非常に苦しくなる。典膳自身が、妻の千春を愛す愛さぬの問題ではもう片付かぬことなのである。】







典膳に一部始終を話し、「千春をご成敗くださいませ。お手打ちは覚悟しております」
と頭を垂れる妻に対して、「たわけを申すな。おまえを斬れば、不義密通を認めたことになる。
世間はそれ見たことかと、手をたたいて囃し立てようぞ」と典膳は、当初の怒りから
静かな憐憫へと変化した心内を千春に告げ、武士の面目上もはや離縁は仕方ないが、
おまえを世間のさらし者にはしとうない、と語りかける。
その後、典膳の機転によって世間における千春の汚名は晴らされたが
長尾家に赴き離縁を告げた典膳に、逆上した千春の兄・龍之進が突然斬りかかった。



    

左:左腕を失った典膳は上杉家家老・千坂兵部の屋敷にかくまわれ療養する。
千坂は、今後の生活の面倒を見る代わりに、長尾家を守るため
ここで起きた刃傷沙汰は一切口外しないでほしいと典膳に頼んだ。
お家の安泰だけを考える父に強く意見した千春は、妻としてでなく
奉公人として典膳の世話を見る決意をする。
しかし千坂は醜聞を隠すため、典膳は桜田堀端で何者かに襲われ、
それを上杉家が匿って治療したと評定所(現在の最高裁)へ届け出る。
その結果、上意によって丹下家は家禄を召し上げられた上、断絶を申し渡された。
右:典膳は、お殿様と呼ばれる旗本から、一気に浪人身分に落とされ
小石川天神下の堀内道場の後輩である安兵衛の住む長屋の住人となった。
一方安兵衛は高田馬場の決闘の助太刀をして、江戸中の人気者へ。
典膳と安兵衛は剣を通しての親友から、その運命を逆転させていく。



    

片腕の浪人となった典膳を、面白おかしくからかう侍たち。
背後から蹴られて池に突き落とされた典膳は、彼らを峰打ちで倒す。
片腕の剣豪・丹下典膳の名もまた高まっていくが
豪商・紀伊国屋文左衛門の誘いにも、典膳は自分は刀一筋で生きてきたので
と断り、蔵前の請負師・白竿屋長兵衛の用心棒になった。
自ら大きなチャンスを捨て去ってしまったわけだが、一方安兵衛の方は
赤穂藩浅野家の家臣・堀部家の養子となって祝言をあげる。
典膳が静なら安兵衛は動、闊達で明るい太陽のような安兵衛に対して
典膳は太陽の影に身を潜ませる月のような存在だった。



    

運命はさらに二人を翻弄させていく。
ここらへんの経緯は誰もが知ってることなので
説明するに及ばないだろう。



    

松の廊下の刃傷事件で赤穂浅野家は取り潰し、
一方吉良上野介も、呉服橋から両国・本所への屋敷替えを命じられた。
上野介は本所は江戸ではないと憤るが、元禄時代の初め頃には
亀戸あたりまでが江戸の範囲になっていたから
そうがっかりするほどでもないと思うのだが。
さて病身の上杉家家老・千坂兵部は次第に典膳の誠実さに共鳴し
彼に吉良家を守ってほしいという頼みを千春に託す。
だが典膳はその頼みを断るために千坂家を訪れるが
千坂はすでに亡くなったあとで、遺言を見せられた典膳は
結局吉良家の警護を受けざるを得なくなる。

近年、吉良に対する評価が高くなってきているようだ。
世の中なんてそんなものだが、私も以前両国に住んでいたので
雰囲気的にも懐かしい思いでドラマを観ていた。
住所は、江戸時代でいうなら「本所辻の橋」あたり(^^;






かくして典膳は吉良上野介の警護のために吉良邸に住み込むこととなる。
しかし風流人の上野介は討入への備えには無頓着で、塀を高くするより
茶室を作りたいと言い出す始末。家臣たちの典膳を見る目も冷ややかだった。
典膳の身分も、家臣でも剣術指南でもない、「客分」ということになった。
ドラマでは、それでも原作よりよほど周囲の扱いが典膳に好意的に描かれていて
上野介も彼の正室も、典膳と千春を復縁させようと心遣いを見せる。

翌年の春、母の墓参りに谷中を訪れた典膳は千春と出会った。
復縁の話を持ち出す千春に、典膳は
「わしは吉良家の用心棒じゃ。いつ死ぬかわからん。
死ねば、またおまえを不幸にする」と、諭すように語りかける。
「あなたが死ねば、千春も死にます」
「たわごとを申すな。わしには、成さねばならぬことがある。
一つは、吉良家を仇討ちから守り抜くこと。
もう一つは、堀部安兵衛を死なせないことだ。
安兵衛に浅野家への仕官を勧めたのはこのわしだ。
わしが勧めていなければ、上杉家に仕官したかもしれない。
安兵衛には借りがある」



    

吉良家を仇討ちから守り抜くこと。そう決意した典膳は屋敷の守りを固め
家臣たちに厳しく稽古をつけるのだが、月日が過ぎるにしたがい吉良家の
緊張感はさらに薄れて、典膳の存在も疎まれていくのだった。
そんなときに安兵衛と会って、このままでは犬死だと言われた典膳の心は
揺れ動く。また同じ頃、上野介の部屋から吉良邸の絵図面が持ち出されて
浅野側に渡った、その嫌疑が千春にかけられた。
千春の嫌疑はすぐに晴れるが、典膳の苦悩は深まっていく。
死への暗い憧れを初めて口にする典膳に、千春の心は震える。

元禄15年12月、吉良家の士気は落ちるところまで落ち家臣たちは
夜な夜な酒に酔い、重臣たちは典膳の忠告にも耳を貸そうとしない。
上野介は14日に満月の茶会を催すことを決め、せっかく作った塀を
月が見えなくて無粋だからと取り壊しを命じる。

浅野側の討入は茶会のある14日と決まった。
その当日、会いたいという安兵衛の伝言を持って来た白竿屋長兵衛の妹に
今夜谷中の七面社でと、典膳は承諾する。



ここで胸に響いたのが、次のような台詞である。
茶会の前に、千春に衣服を整えてもらっている典膳がこう語る。

「わしはだんだん浅野家の残党がうらやましくなってきた。
お家は断絶しても、浪人になっても、あの者たちには生きがいがある。
死に場所のことじゃ。
わしは安兵衛に言うてやった。殿中で刃傷に及んだのは内匠頭じゃ。
斬られた吉良様を仇呼ばわりするのは筋違いではないかと。
すると安兵衛はこう答えた。われらは吉良様ではなく、御公儀のお仕置きを
恨んでおります。安兵衛はこうも言うた。世間の思惑通りに仇討ちをすれば
満天下の喝采を浴び、浅野家の勇名は後世まで語り継がれますと。
身勝手ではあるが、ご公儀に一矢報いると言えなくもない。
少なくとも浅野方は己を捨て、命を捨てておる。
なりふりかまわず、汲み取り屋に身をやつし、八百屋に化け、奥女中になりすました。
あの者たちは死に場所を見つけたのだ。死ぬることが生きがいなのだ。
その生きがいをぶち壊そうとしているのは誰だ。
嵐に立ち向かう小船を沈めようとしているのは誰だ。
邪魔者はこのわしじゃ。丹下典膳に他ならぬ」

その後で典膳は大事に飼っていたつがいの文鳥を籠から解き放ち
雪の中を、安兵衛と約束している谷中の七面社へ向かうのだった。







七面社の境内では、安兵衛がいつもとかわらぬ明るい笑顔で典膳を出迎えた。
窮余の策として、典膳を外に待たせている駕篭に乗せ、
討ち入りの一晩の間だけ隠れていてもらおうというのだ。
親友の典膳とは闘いたくない(もし闘っても勝ち目がない)安兵衛の思いからだが
固い決意を秘めてやってきた典膳が承知するはずがない。
逃げてくれと懇願する安兵衛に向かって「問答無用!」と挑発し
自ら剣を抜いた。






わざと隙を作った典膳の体に、安兵衛の刀が突き刺さった。
ちょうど大河『新選組!』で沖田総司が、死の願望に取り付かれた
芹沢鴨に刃を突き立てたシーンのようだ。



    

左:「典膳殿…」と驚愕する安兵衛。
右:典膳はにやりと笑みを浮かべながら
「これでよかったか? わしにも死に場所があったな。
安兵衛、心おきなく本懐を…遂げよ」
そして典膳は、安兵衛の腕の中でこと切れる。



    

左:空になった文鳥の籠を見た千春は不吉な予感を覚え
茶会に招かれた父に頼んで駕篭を出してもらい、七面社に駆けつける。
そこには愛しい夫の体が横たわっていた。
右:「あなた、あなた、どうなさいました? 目を開けてくださいませ」
千春は夢中で、冷たくなった典膳の頬をたたいた。
初めて出会った桜の宵に、典膳が千春の頬をたたいたように。






しかし再び典膳が目を開けることはなかった。
深く静かな悲しみと共に、千春は典膳に寄り添った。
雪がしんしんと二人の体に降り積もっていく。






12月15日未明、堀部安兵衛ら赤穂浪士が、
茶会の後の吉良邸に討ち入った。
典膳と千春の美しい出会いと永遠の眠りの場となった
早朝の七面社に、小鳥のさえずりが響き渡る。




ずいぶん長くなってしまったが^^; 脚本家のジェームス三木が投げかけた
典膳の死は自殺か、他殺かといった問いに私なりに答える形で、ドラマを再構成してみた。
どの回も落ち着いてじっくり視聴できなかったので、こうして振り返って見ると
自分でも、ああそうだったのか…と納得できる部分も多かった。

自分の落ち度ではないのに、相手をかばってした行為が、逆に典膳からすべてを
奪い取っていく結果となる。
妻とその実家と主家をかばって左腕を失い、お家は断絶、旗本身分から一介の浪人へ
身を落とし、吉良家を護る代わりに屈辱を浴びて居場所を失い、最後は親友の安兵衛を
生かすために自らの命まで投げ出した典膳。
剣一筋に生きてきた男が片腕を失い、食事をするにも帯を結ぶにも一人ではできず
それでも武士として備わったプライドを守り、背筋を伸ばして生きていくさまは、哀れでも
あり、潔くもある。

理不尽な世に抗ってまっすぐに生きる、その悲しさと強さ、美しさを久々に深くしみじみと
感じさせてくれた『薄桜記』。
地上波での再放送が始まったら、もう一度ゆっくり味わって観てみたい。






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2012/10/12(金) 11:07:11 | 逝きし世の面影